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飛ぶという不自由

「空を飛ぶにはどうしたらいいと思う?」
「飛行機に乗りなよ」
「違う違う、俺が自力でってこと」
「飛行士になれば」
「いや、そういうのじゃ満足できないんだ」
「崖から飛びなよ」
「死ぬって」
「死なないように崖から飛びなよ」
「じゃあ、仮に飛ぶとするだろ?」
「うん」
「落ちるじゃん」
「落ちるね」
「落ちちゃ駄目なんだよ」
「そう?」
「飛ぶってことは落ちちゃ駄目なんだよ」
「そうかな」
「せいぜい降り立たなきゃ駄目なんだよ」
「私の勘ではあなたが飛ぶの当分は無理ね」
「鳥みたいにさ、優雅に飛びたいわけ、俺は」
「鳥になりなよ」
「無理だよ」
「あのね、あなたさっきから駄目だの無理だの……」
「なあ、頼むよ、俺さ、わりと本気なの」
「まぢで?」
「まぢまぢ」
「あなたの本気ってふざけてるよね」
「お前の言葉はいま俺のこころを傷付けました……」
「もう」
「どうにかならないものかね」
「しかたない、じゃあ、ちょっとそこで羽ばたいてみて」
「ここで?」
「そう」
「まぢ?」
「まぢまぢ」
「よっしゃ、いっちょやってみっか」
「いけいけやっちゃえ」
「いきます」
「はい」
「どう?」
「もっと羽ばたいて」
「モア・スピーディ!モア・クィックリィ!」
「いいぞ!いけ!やれ!」
「こういう感じかぁー!」
「もっと飛びそうな感じでー!」

「…………」

「なに?」
「お前馬鹿だろ」
「殺すぞてめー」
「す、すまん……」
「はっ、結局ね、あなたは本気で飛びたいとは思ってないわけよ」
「失礼な」
「だから空を飛びたいとか不自由なことしか思い付かないわけ」
「違うよお前、なまら自由だよ、空だぞ」
「飛んでからいいなさいよ」
「あー、俺は不自由だー」
「まるっきりね」
「今日の晩飯なに食おうかなあ」
「それにね、ふっ、空の上には死があるのよ」
「…………」
「…………」
「なに巧いこといってんだよ、頓知かよ」
「なによ」
「お前は頓知小僧かっつうの。空の上関係ないし、唐突すぎ」
「どうでもいいけど、あなた頭の回転遅いよね」
「うるさいな」
「だから飛ぶことできないのよ」
「それは関係ありません」
「で、今日なに食しちゃう?」
「お前」
「あんた馬鹿だわ、やっぱ」