体育館に渦巻いた灰色の妖術

 中学時の体育の授業では柔道があった。高校時の体育の授業では剣道があった。体育館の奥や校舎の中二階のようなところに武道場があり、秋冷えするなか、いそいそと男子はそこで裸足になった。そう、「男子は」である。いまなら、「南無男女共修」と少しうるさいかもしれない。

 じゃあそのとき、女子はなにをしていたのだろう。何度か疑問に思ったことはあった。そして、僕はその内容を知っている。いや、違う。少なくともその言葉を聞いたことはあったというべきだろうか。というのも、実際に行われているところを見たことはないし、詳細を聞いたこともないのだ。

 男子が柔道や剣道をやっているのだから、女子は合気道? いや、護身術だろうか? いずれにせよ、肉体と精神を鍛錬する内容なのだろう。そんなことは考えていたかもしれない。しかし、武道場は使ってしまっているし、いったいなにをするのだろう。僕は興味があった。

 しかし、はっきり言って、女子たちはそれを隠していた。あの体育館の緊張感、その空間に男子という異物が一個でも入り込もうものなら殺されるのではないかという迫力があった。あの視線、あの挙動、あの連帯感、あの空気を醸成できるカリキュラムなど、そうそうあるものではない。

 ではそのとき、彼女たちはなにをしていたのか。「創作ダンス」である。女子は集団でダンスを創作していた。踊ったのだろうか。踊ったのだろう。男子が受け身や切り返しを練習しているとき、女子はダンスを創作していた。そして踊った。地獄だな、と僕は思った。

 だが、認めなければならない。それは事実なのだ。戦慄する事実ではあるものの、女子はみな創作ダンスを踊った。あの女子もこの女子も、いまこのテキストを読んでいる女子も、もう女子じゃない婦人もみなダンスを創作した、そして、踊ったのだ。真面目な顔をして。

 旦那、いま、あなたの傍にいる人、踊ってますよ。
[PR]
by kourick | 2011-12-05 00:00 | 随想