誠天調書 さんから 小生どうが に少し言及していただいていたこともあって、ずっと書こうと思っていたテキストを書こうと思う。ニコニコ動画の削除体制の強化以降についての個人的な感想になります。

 ひとまず、小生どうが に関してですが、九割以上の生存率です。もともと息の長い動画から集めていたのだけれど、それにしても少し驚きました。というか、削除者が表示されるというフェアな嫌がらせを提案した人は鬼ですね。あれをされると権利者削除も戦略的になるでしょう。

 認知度の高い作品や公式配信しているような作品以外は、わりと残りやすいんじゃないかと僕なんかは思います。ニコニコ動画はわりと制御しやすい場だろうし、アニメファン以外の目にも作品が触れることは多いだろうから、実験的なことはしやすいんじゃないかな。

 削除体制の強化とのことですが、個人的にはまだ感じていません。むしろ、「削除体制は必要に応じて強化できるし、する」というイメージをきちんとユーザに持たせることに成功したんじゃなかろうか。権利者側をむやみに敵視せずに協調体制をとれるようにしましょうということかな。

 わりと言われるのはアニメ本編の削除ですが、僕が見たいというか見ていたというか見れていたものはけっこう残っているし、アニメ本編の削除は強化以前の、たしか今期の始め、マクロスFやギアスR2等のネット配信が始まったあたりから厳しかったように思います。

 というか、アニメ本編を動画共有サイトを使って見たいという奇特な人はもう youkuVeoh に流れますね。いまさら、ニコニコ動画という珍奇な動画共有サイトで「違法アップロードされたアニメ本編を見たい」と愚痴るのは「ちょっと違う」感じがします。

 ニコニコ動画人口の少なかった時期にアニメ本編をエンジンにして(裏技的に)利用者を増やすというならまだしも、これだけ市民権を得てきたニコニコ動画内にアニメ本編を残していても、ニコニコ動画にとってはあまり積極的な意義や進展はなさそうです。うまみがない。

 だから、アニメ本編の削除が強化されているとしても、むしろいまやクリーンになるイメージのほうが強いです。「アニメ本編が削除されたらなにを見るのか?」と言う声もあるけれど、アニメを見ない人は山のようにいるし、アニメばかり見ているような人のほうがたぶんマイノリティです。

 というか、僕は正直、そもそもアニメ本編の削除が本当に強化されているのかも疑わしいと感じています。というのも、現在放映中の動画以外はわりと残っているからです(こういうことを書いて消されてしまうのが恐いから、あまり書かないようにしているのだけど)。

 最近だと、 誠天調書 さんもその動向に注目していた「涼宮ハルヒの憂鬱」は、二期が始まることもあってかとうとう消されてしまいました。マクロスF 開始直前にマクロスシリーズが全部消されるということもあったので、こういう影響関係はあるのだと思います。
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by kourick | 2008-07-26 00:00 | ネット
22時、珍しい人と酒を飲む。

「シメイの赤、それと……あと、バッファロー・チキン・ウィング」
「ギネスとフィッシュ・アンド・チップス」

ソファに座るなり話しかけてきた人物に、僕らはこっそり告げる。それと同時に、僕たちは長方形の肖像画と円形の合金をその人物に差し出す。この規定のアイテムをその人物に渡すと、彼ら(たいていは組織的なチームを成している)はこっそりと僕らに当該の品物を提供するのである。この暗黙的に通用しているシステムを知らないと、この土地で生活するのは難しい。

「最近さ、野口英世の肖像画が流通しているらしいよね」
 僕は辟易した調子を演出する。
「ああ……そうね」と彼女はソファに座り直しながら言う。
「よりにもよって野口英世だよ?」
 灰皿を取る。
「じゃあ、君なら誰を採用してたの?」
「僕だったら、千円札に有島武郎、五千円札に芥川龍之介、一万円札に太宰治、これで決まり」
 そう言うと、僕は煙草に火を付ける。
 彼女は「Suicide money?」と言って笑った。いちおう、彼女にも微笑機能は付いている。
「ポケットの中の文人ね」
「いいなあそれ。財布を覗いて僕は言うわけ。嘘だと言ってよ、太宰」
 僕は灰皿の端を利用して煙草の灰を落とすと火種を整形する。
「まあ、そういう思い入れもあって、僕は野口英世を使うことには抵抗があるね」
「ふぅん、そう……まあ、たしかにわたしも夏目漱石を愛用してるんだけどさ」

彼女はさらっとそう言うと夏目漱石の肖像画を懐から取り出した。僕は思わず、「え?」と言ってしまった。完全に虚を衝かれた。いや、たしかに入手可能ではあるし、利用可能でもあるけれど、ただ、それはもう、それなりにレアものだし……というか、普通、持ってる?

「もしかして、君、持ってないの? 夏目漱石を好きなのに?」
 彼女は夏目漱石の肖像画をひらひらと揺らしながら、僕の顔を不思議そうに見る。
「…………」

僕はグゥの音もでなかった。僕も以前は夏目漱石の肖像画を持っていた。いまは持っていない。どうしてか。夏目漱石の肖像画は、もはや製造を中止されてしまっているからである。これは21世紀になってもっともがっかりしたことのひとつだった。そして、このことに、僕はがっかりしただけだった。がっかりすることを了承していた。確保もしなかった。みすみす手放した。認めよう。

「もしかして、紫式部のも持ってたりするの?」
 僕は話を逸らした。
「わたし、そこまでミーハーじゃないから」
 そう言って、彼女は(にっ)と笑った。憎たらしい猫みたいだ。
「そうだよね」
「まあ、伊藤博文と聖徳太子のなら、何枚かはあるけど」

僕は愕然とした。「なぜ?」と質問しようと思った。しかし、どうしてだろう。彼女はどうして、そんなものを持っているのだろう。話のネタになるから、とか、そういう俗人的な理由じゃないことだけはたしかだ。そういう人格じゃない。そもそも、この女は人と話をすることにあまり価値を見出していない。仕事に使う? いや、違う。ひょっとして、趣味か? まさか、違う、そういう理由じゃない。

「偽造でもするつもり?」
 僕は訊いた。
「どうしてそうなるかな」
 彼女は苦笑する。
 珍しい人のその珍しい困惑の仕方から、僕は気付いた。
「あ、形見?」
「正解。母方の祖父の形見」

 なるほど。

「いやあ、危なかった」
「なに?」
「伊藤博文とか聖徳太子みたいな Type が、君の好みなんだと結論するところだった」

 彼女は鼻で笑う。

「そうだとすると、ちょっと、あまり深いことは訊けないかなと思案していたところ」
「別に、わたしはそのことを否定したつもりはないけど?」
「は?」
「いや、だから、お髭のおじさまって、格好良いと思うわ」

 え? ああ、ああ……そうね、わかるわかる、わかるよ。
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ここのところ、僕はその部屋にあまり顔をださない。じゃあ、顔以外のところならだしてるの、とか、そういうことはどうか言わないように。そういうのはね、珈琲とかケーキとか、そういったお土産のある人間にのみ許された言葉なわけ。いい加減、君もそういうことに気付かないといけない。そういうのがね、大人になるというのとはまた違う、そう、人間として成熟するっていうのかな、そういうことなんだよ。わかる?

「わかるよ、ありがとう」彼女はそう言いながら、僕から珈琲を受け取る。「ケーキは?」
「ないよ」
「あそう」彼女はちらっと僕のほうを見て、また机上の論文に目を落とした。
「君、もってない?」
「なにを?」
「ケーキ」

彼女は僕を無視して珈琲をすすった。ケーキ屋の冷蔵庫って憧れるなあ。あまったケーキ、試作品のケーキ、ケーキのようなもの、ケーキにしたら面白そうなもの、ケーキにはならないけど今日の夕飯にはなりそうなもの、とかとか、もう、素人には想像のつかないようなケーキに関わる物体がその冷蔵庫のなかで冷やされているわけ。そういうの、たまらないよね。

「思わない?」
「三日に一度は思う」

そりゃそうだ。クッキーとかも冷やされてるだろうなあ。なんてったってケーキ屋の冷蔵庫だもの。たださ、これを言いだしたら、僕は味噌屋の冷蔵庫もそうとうだなって思うわけ。味噌に関わる物体、主に味噌、その味噌たちがもう、冷蔵庫の一段、二段は当たり前って感じで冷やされているわけでしょう? 白かったり黒かったり赤かったり、これはまあ、そうとうだよね。

「関係ないけど、おばあちゃんちの冷蔵庫って、絶対、リボンシトロン入ってない?」
「うち、ナポリン派」

 なるほど、それが影響して、こういう人格に育ったのか。

「あまり関係ないと思うよ」と言って、彼女はまた珈琲をすすった。

 そうだろうか。

「そうだよ」

 どうかなあ。

「どうかなあ?」

 どうだろう?

「はあ」と彼女の溜め息。「じゃあ、暑いから、冷たいものでも食いに行こうか」
「いいね」
「あと、甘いものもいいかも」
「珈琲、ちょっと苦かったかな?」僕は彼女の顔を覗き込むように言う。
「ケーキもあったら、ちょうどいい感じの濃さだったかもしれないね」
「なるほど」

 だろうね。

「それとも味噌汁でも飲みたい?」彼女が憮然とした表情で言う。

 うわあ、なにそれ、期待しちゃうなあ。

「…………」彼女は僕の目を見る。僕も彼女の目を見る。やっと、目が合った。
「なに?」
「シトロン飲んでたら君みたいになるわけ?」
「さあ、どうだろう」

 あまり関係ないと思うよ。
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