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ルネ・ドーマルの詩

 登山とは、最大の慎重さをもって
 最大の危険に立ち向かいつつ、
 山を歩きまわる技術である。
 ここで技術と呼ぶのは、
 ある行動を通じて、ある知識を遂行すること。

 いつまでも頂上にとどまっていることはできず、
 また降りなければならない……
 では、
 そんなことをして何になる?

 こうだ――

 高所は低所を知っており、低所は高所を知らない。
 登りながら、いつも道の険しさをよく確かめておけ。
 登っている限り、その険しさが見える。

 降りるときには、もう、それが見えないだろう、
 でも、君がすでによく観察していれば、
 そこに険しい道があることを知っているだろう。

 登る、見える。
 降りる、もう見えない。
 だが、すでに見ている。

 より高い場所にいたときに見た記憶によって、
 低所を進む技術がある。
 もはや、見ることができないとしても、
 少なくとも、まだ知ることはできる。

 頂上への道をしっかりと見つめつづけ、
 だが、足もとを注視することも忘れるな。
 最後の一歩は最初の一歩に左右される。

 頂上が見えたからといって、到着したつもりになるな。
 足もとに気をくばり、つぎの一歩をしっかりと支え、
 だが、もっとも高い目標から目を逸らすな。

 最初の一歩は最後の一歩に左右される。

Rene Daumal 『 Le Mont Analogue 』
ルネ・ドーマル 『類推の山』 (巖谷國士訳)

by kourick | 2003-06-20 00:00 | 翻訳